世界一の名曲といえば何だろうか?グーグルで検索したところ、スピッツのチェリーとかXJAPANのTEARSとかいう意見があった。しかし世界的に見て、歴史的に見て、現代的に見て総合的に考えるとバッハのG線上のアリアが世界一の名曲だと私は思う。聴いて感動しない人はいない。だれもがその強烈なインスピレーションに普遍的なものを感じるのではないかと思うからだ。そして今日、あるCDを聴いた。その内容は1989年のサントリーホールでのドレスデンフィルの演奏。曲目は運命、アンコールにG線上のアリアだった。運命を聴き終え、G線上のアリアを聴き始めたとき、私はもう泣ていた。ライナーノートにはこう書かれている。「『アリア』は、存在の悲しみについて語っているように聞こえる。美も、歓喜も、勝利も、幸福も、絶望も通り過ぎた地点から。」指揮者のケーゲルはこの演奏の翌年、ピストルで自殺した。私は何もケーゲルという指揮者に何も知らない。何も思い浮かべていない。しかしこのアリアの何という美しさ!死にたくなる美しさというべきか。思うに彼は運命で絶望を乗り越え、歓喜を、勝利を得ようとした。その全てをつくした。しかし結局のところ歓喜も勝利も得られなかった。やっとの思いで手につかんだ瞬間、指の間からすり抜けていく幸福・・・そして長い沈黙のあとの諦念のアリアが始まったとき、ベートーヴェンの、苦悩から歓喜へのイデーが否定されつくした。hmvの当CDのレビューでは「涙をぬぐうのは涙しかない。」「人生は悲しみの連続である。」などと書かれている。これはさすがにケーゲルの演奏に影響されすぎていると思うが、しかしこれを聴くと本当にそう思ってしまうのも分かるのである。競馬は人生の縮図というが、このケーゲルの演奏は人生の拡大図である。人生の拡大図とは何か。宇宙に漂うちっぽけな浮遊物を想像して欲しい・・・もしそのはかない星が物語を歌ったら。その星は歓喜も、勝利も、幸福も、絶望も歌っていないでしょう。彼にはただ存在の悲しみが存在するだけで宇宙をさまようだけなのです。私はそれを人生の拡大図だと言うのです。◇ 07/05/29(火) 10:42 編集